大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

金沢地方裁判所 昭和30年(ヨ)145号 判決

申請人 直地外男

被申請人 株式会社 北陸銀行

主文

本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

事実

申請代理人は「被申請人銀行が昭和二十八年十月五日附で申請人に対してなした免職の意思表示についてその効力の発生を停止する」との裁判を求め、その理由として、申請人は大正三年四月被申請人銀行の前身である株式会社高岡銀行に奉職し、金沢支店勤務となり、同十年二月大聖寺支店に、同十二年十月に金沢支店に、昭和八年八月片町支店に、同十一年三月小松支店に、同十二年三月英町支店に同十五年四月金沢支店に夫々勤務替となり、同十六年八月片町支店長になり、同十八年七月合併により被申請人銀行となつたが引続き片町支店長の職務を採り、同年十二月右片町支店は整理閉鎖され犀川支店に業務継承と同時に犀川支店長代理の、同二十一年五月尾張町支店長代理の、同二十四年一月松任支店長の、同二十八年三月安江町支店長代理の夫々職務を採り、同二十八年十月十四日まで過去四十年間鋭意その業務に精進し、自己の生活を保持すると共に被申請人銀行のためつくして来たものである。然るに被申請人銀行は昭和二十八年十月十四日申請人に対し何等の予告もなく「松任支店長として、(一)在職中怠慢の為部下の不正貸出を早期に発見するに至らず、(二)剰え発見後と雖も本店へ報告せず、且つ、(三)ほかに不正貸出を行う等部下の監督不行届は勿論銀行員として常軌を逸したるは不都合につき人事規定第十九条により免職する」との同月五日附の辞令を以て申請人を懲戒解雇する旨の通告をなして来たのであるが、右(一)の事由については部下である中村成器支店長代理の不正貸出が極めて巧妙な手段でなされていたため容易に発見できなかつたもので、現に昭和二十八年二月初旬の本店検査課から来た専門の検査によつても発見されず、同年三月下旬の検査によつて漸く発見されるに至つた程で、申請人が職務怠慢であつたから早期に発見できなかつたという訳のものではないし、(二)の事由についても申請人が中村支店長代理の不正貸出の事実を知つたのは同年三月下旬で、右第二回目の検査係の検査の結果を知らされて初めて知つたのであるから発見していながら本店へ報告しなかつたということはない。また(三)の事由については事実無根であつて債権確保の手段は全て措つている筈であり、申請人は専ら職務に精励して来たのである。従つて申請人は当時北陸銀行職員組合の組合員ではあつたが被申請人銀行の人事規定第十九条及びこれに優先する効力をもつ昭和二十六年十二月三日被申請人銀行と北陸銀行職員組合との前に締結された労働協約(以下単に「労働協約」と称する)第十四条の定める懲戒事由に該当する者ではない。仮りに申請人が上司(支店長)として部下たる中村支店長代理の不正貸出について問責されるところがあるとしても、これはあく迄間接責任に過ぎず、これを以て人事規定第十九条が懲戒処分として定める(一)免職、(二)罰俸、(三)譴責の三種のうちで最も重く、また労働協約第十五条が定める(一)免職、(二)諭旨解職(三)減給、(四)譴責、(五)訓戒の五種の懲戒処分のうちでも最も重い免職に処するということは、労使関係を律する信義則に反するといわねばならず、いずれにしても本件解雇の意思表示は無効であり、而して申請人は本件解雇通告後も事件解決のため真摯な努力を続け昭和二十九年六月頃までには略々解決をみたのであるが、その為に費した費用は嵩み、且つ他に収入とて殆んどなく、その生活は極度に窮迫しているので本申請に及んだと述べ、被申請人銀行の主張に対し被申請人銀行の特別検査は申請人を立会いさせることもなく、検査役は僅々五分間位申請人に対し質問をなしたに過ぎず、その検査報告書なるものの内容も全然知らなかつたものである。検査役の質問には単に中村支店長代理の浮貸行為について支店長として間接責任を負うと思料する旨回答したに過ぎず、また定期預金証書を二重に作成したのは被申請人銀行のため農協預金を獲得する為の策として為したものであり、而かも債権確保の手段は十分尽してあり、実害の発生する余地はないものである。また被申請人銀行が申請人を免職するに当り労働協約第十四条に基いて構成された調査委員会の同意があろうと、労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けていようとも、その前提事実に於て真実に反する検査報告書に基礎を求めている以上、何ら本件解雇を有効とするものではないと述べた。(疎明省略)

被申請代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、申請人の経歴中、申請人が昭和十八年七月以降同二十八年十月十四日迄申請人主張の各期間に亘り被申請人銀行の支店長又は支店長代理等として勤務して来たこと(但し昭和二十八年四月十五日附で安江町支店長代理の職は解かれている)は認めるがその余の点は不知である。而して被申請人銀行が昭和二十八年十月十四日解雇予告をせず申請人主張のような内容の同月五日附の辞令を以て申請人を懲戒解雇する旨の通告をなしたこと及び申請人が本件解雇後も不正貸出の債権の回収に協力したことは認めるがその余の申請人の主張はいずれも争うと述べ、申請人は本件の免職の理由を否認しているが、被申請人銀行は昭和二十一年八月二十九日令達第十七号により支店長は支店内の検査を随時施行し、殊に現金在高については毎月二回以上、各種残高については毎月一回以上検査の上本店に報告することと定めてあり、申請人もこれに基き報告を為していたのであるから申請人自身の不正事実は別としても部下たる中村成器支店長代理の不正事実については知悉し乍ら報告しなかつたものに外ならない。松任支店のような少人数(当時職員として男子四名、女子二名が居つたのみ)の支店に於て多額にして且つ長期に亘つて継続した不正が行われていたのに支店長たる申請人がこれに気附かぬことはない筈であり、仮りに気附かなかつたとしても重大なる過失があつたものである。のみならず被申請人銀行では昭和二十八年三月二十七日より同年四月七日に亘り検査役南甚一郎外一名を松任支店に派遣して特別検査を施行したところ吉田一慶外三名に対する合計四百六十万円の浮貸の事実を発見したのであるが、その際に於ける右検査役南の質問に対し申請人及び中村支店長代理とはいずれも右金額のうち三百六十万円については申請人が右中村に浮貸を指示し共謀の上浮貸したこと及び他の百万円については右中村が単独で浮貸したものである旨を各認めていたものである而してこれらの浮貸資金は(1)本部勘定内訳表(貸方)報告を出し乍ら入金伝票を伏せることを反覆行う方法、(2)架空回金を作つて本部勘定内訳表(借方)を本店へ提出せざる方法、(3)未決済為替借の入金伝票を伏せる方法、(4)預金勘定の入金伝票を伏せることを反覆行う方法、(5)架空の出金伝票を作り現金を引出す等の方法によつて捻出されていたものであり、また貸付の相手方の求めによつては一口の定期預金につき所謂副書と称して二通の証書を発行して被申請会社本店の検査を誤魔化し又は貸付の相手方たる農業協同組合等の不正行為に協力するなどしていたのであり、これらのことはいずれも当時申請人も認めていたことである。所謂浮貸は借主が信用薄いか又は人的物的担保に欠けるところがあつて到底本店の承認を得られる見込がないような場合、本店の決済を得ずに貸出すもので、帳簿にも記載のないものである。以上のような申請人らの所為は刑法上の背任、業務上横領及び文書偽造罪等にも該当するものである。尤もこの点については申請人らは刑事責任を問われていないが、これは被申請人銀行が社会的信用を基調とする銀行営業をなすところからでき得るだけ内部的に穏密に解決しようと努めたからに外ならないものである。凡そ被申請人銀行のような金融機関の役職員に於て最も慎しむべきは浮貸行為であつて、若しこれを寛大視するときは対外的信用を失墜することは他にこれ以上甚だしいものはないのであるから懲戒解雇(免職)を以て臨むべきは言を俟たないところである。なお被申請人銀行は申請人を免職するに当つては労働協約第十四条に則り調査委員会(組合側からも委員としてする)に諮り、その結果免職するのが相当と認めて北陸銀行職員組合執行委員長と連署の上、昭和二十八年十月三日参加附を以て同月五日労働基準法第二十条第一項但書に所謂「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」に該当するものとして金沢労働基準監督署長宛解雇予告除外認定申請書を提出し、同監督署長は同月八日申請人を召致し実情聴取の上、この申請を理由ありと認めて申請通りの認定証(同月五日附)を交付してくれたので、被申請人銀行は本件の免職通告をなしたものであつて、申請人は当時はその非行を認めてこれを詑び何らの異議も止めずして右辞令を受領しているのであると附陳した。(疎明省略)

理由

申請人が昭和十八年七月以降同二十八年十月十四日迄被申請人銀行の支店長又は支店長代理等として勤務したこと、松任支店長として勤務したのは昭和二十四年一月から安江町支店長代理に転じた同二十八年三月迄であること、及び被申請人銀行が申請人に対し昭和二十八年十月十四日何らの予告もなさずに「松任支店長として在職中怠慢の為部下の不正貸出を早期に発見するに至らず、剰え発見後と雖も本店へ報告せず且つ、ほかに不正貸出を行う等、部下の監督不行届は勿論、銀行員として常軌を逸したるは不都合に付、人事規定第十九条により免職する」との同月五日附の辞令を以て申請人を懲戒解雇する旨の通告をなしたこと(以下「本件解雇」と称す)は当事者間に争がなく、また本件解雇に当つては被申請人銀行は昭和二十六年十二月三日被申請人銀行と北陸銀行職員組合(以下単に「組合」と略称する)との間で締結された労働協約第十四条に則り組合側の委員も参加して調査委員会に諮り同委員会も本件解雇に同意したこと、昭和二十八年十月五日附で労働基準法第二十条第一項但書に所謂「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」に該当する旨同条第三項による金沢労働基準監督署長の認定を受けたこと、申請人が本件解雇当時組合の組合員であつたこと及び被申請人銀行の人事規定(以下単に「人事規定」と略称する)第十九条には懲戒処分として、(一)免職、(二)罰俸、(三)譴責、の三種が、また労働協約第十五条には(一)免職、(二)諭旨解職、(三)減給、(四)譴責、(五)訓戒の五種が夫々規定されており、いずれにしても申請人は最も重い免職処分を受けたことは当事者間に於て争のないところである。

而して申請人は、申請人に於て人事規定第十九条及び之に優先する労働協約第十四条の定める懲戒事由に該当する事由もないのに申請人を懲戒解雇したものであると主張し、被申請人銀行は之を争つているので審按する。成立に争ない疏甲第一、第二号証によれば、労働協約第十四条には被申請人銀行は組合員が(一)就業規則その他の諸規定に違反した場合、(二)職務過怠、取扱粗漏等により銀行の名誉を失墜し又は銀行に損害を及ぼした場合、(三)その他綱紀を紊り不都合な行為があつた場合、(四)刑罰の適用を受け又は刑罰の適用を受けることが明らかになつた場合、(五)故意又は悪意を以て銀行に損害を及ぼし又は銀行の信用を著しく害した場合、(六)勤務成績が甚しく不良又は仕事の能力が甚しく劣る場合には情状により懲戒に附する旨が定められ、また人事規定第十九条には諸規定に違背し不都合の所為があると認めたときは懲戒処分に附する旨が定められていることを認めることができる。そこで先ず申請人の所為に於て右懲戒事由に該当するところがあつたかどうかをみるに、証人南甚一郎(第一回)の証言から成立の認められる疏乙第二号、第七号証成立に争のない疏乙第三号証に証人南の第一、第二回、同三守作松、同滝口昇平の各証言及び申請人本人尋問の結果を綜合すれば、申請人は被申請人銀行の松任支店長として在職中の昭和二十八年三月四日迄にその下僚である支店長代理であつた中村成器が、(イ)預金勘定の入金があるのにその伝票を一旦伏せて置き(預金元帳又は預金者通帳には記入する)、(ロ)未決済の為替借の入金があるのにその伝票を一旦伏せて置き、数日後出納帳にこれらの入金を記入すると共に別にまた伝票を伏せることを反覆するなどの不正な方法によつて同年二月十二日以降同年三月三日迄に捻出した合計百七十万円((イ)の方法によるもの五十二万二千八百円、(ロ)の方法によるもの百十七万七千二百円)を正規の手続(十分なる債権確保の方法をとつた上本店に禀議し、頭取又は審査部長の承認を受けて、出納帳等所定の銀行帳簿に記入の上貸出額に相当する小切手や手形を差し入れさせて貸付する)を経ることなく、(一)訴外吉田一慶の懇請に応じて同訴外人に対し同年二月十二日二十万円を同日附で同訴外人振出、被申請人銀行宛の額面二十万円の小切手一通を差し入れさせて貸付し、(一)、同訴外人及び旭村農業協同組合の懇請に応じて同組合に対し同年二月二十日百万円を同日附で同協同組合振出、被申請人銀行宛、満期同年三月三十一日、額面百万円なる約束手形一通を差し入れさせ、同二十七日五十万円を同日附で同協同組合振出、被申請人銀行宛満期同年三月二十日額面五十万円なる約束手形一通を差し入れさせて各貸付していたことを被申請人銀行松任支店から同安江町支店に転勤後たる同年三月三十日に至る迄気付かずにいたこと、及び右不正貸出による債権はその後十分なる回収ができず被申請人銀行は損害を受けたことを認めることができ、また成立に争のない疏乙第一号証、申請人本人尋問の結果から成立の認められる疏甲第四号証、証人南の第一回、同三守の各証言及び申請人本人の尋問の結果を綜合すれば、(1)申請人は過去四十年間もの期間に亘り銀行業務に従事し、殊にその間幾度か支店長又は支店長代理といつた重職に就いており、銀行業務に関しては専門家であること、(2)申請人は被申請人銀行の松任支店長として同支店の事務を総括していたが、同支店は小規模でその職員は極めて少数であつて、自らも貸付係を担当し、中村支店長代理は出納、庶務為替事務を担当していたこと、(3)昭和二十一年八月二十九日被申請人銀行頭取高広次平は昭和二十一年八月二十九日附令達第十七号を以て支店長は支店内の検査を随時励行して、(イ)担保元帳及び担保品内訳表に基ずき担保物(手形貸付、当座貸越、証書貸付等の担保品、商品担保、保護預り、仮預り品等の区別に従う)について半期毎に一回以上、(ロ)日計表に照合して現金在高については毎月二回以上、(ハ)日計表その他帳簿に照合して手形貸付、証書貸付、当座貸越、未決済為替貸、未決済為替借、本部勘定、各種預金等の残高について毎月一回以上、また取引約定書等各種の証書類につき半期毎に一回以上、夫々支店長及び各係員署名捺印をした報告書を提出するように通達があり、申請人も松任支店長として右通達に従つて報告書を提出していたが、その検査に当つては自らこれを為すのではなく、各係員らをして右各種の報告書を作成せしめ、而もその内容を些細に検討し確認するのでもなく極めて形式的に署名捺印していたこと、(4)毎日の入金等の伝票は支店長のもとに集められ支店長は当日の伝票を点検する義務があり、申請人もこれを実施していたこと、従つて前示認定の如き不正貸出資金の捻出方法をとつたときは必然的に伝票の日附と出納帳の日附とが齟齬してくるから支店長は容易にこのことを発見する筈であること、及び(5)申請人は中村成器が昭和二十七年三月被申請人銀行松任支店に赴任した頃当時被申請人銀行金沢支店長であつた菊森某及び本店の人事部長から「中村は南町支店長代理当時不正行為をしたことがあるから注意していて呉れ」と予め注意を受けていたことなどを認めることができる。以上によれば申請人は支店長としての通常の注意を怠らなければ中村支店長代理の不正貸付を容易に発見し得た筈であり、それにも拘らずこれを昭和二十八年三月三十日迄気付かなかつたということは支店長として甚だしい職務の懈怠があつたと認めるのが相当である。尤も証人南の第二回証言によれば、被申請人銀行の専門の検査係である申請外南甚一郎及び桐野某の二人が昭和二十八年二月三日頃から同月七日頃迄に亘り被申請人銀行松任支店に赴き定期検査を実施したがその際には不正貸付の事実は発見されなかつたことを認めることができるが、前示認定の如く中村支店長代理の不正行為はこの検査後になされたものであるから当然のことで何らの矛盾もない。のみならず前記疏乙第二、第三号証によれば申請人は昭和二十八年一月五日申請外旭村農業協同組合振出の額面三百万円、満期同年一月九日たる約束手形一通を被申請人銀行に差入れさせ、且つ同協同組合の定期予金を担保とすることとして三百万円を貸付したのであるが、その際同協同組合側の役員らと相謀り専らその便宜を図るために右預金証書の副証書なるものを不正に作成して交付したこと及び同年一月二十三日申請外野々市村農業協同組合振出の額面百五十万円、満期同年二月二十八日なる約束手形一通を被申請人銀行に差し入れさせ、且つ同協同組合の定期予金を担保とすることとして百五十万円を貸付したのであるが、その際同協同組合側の役員らの懇請に応じその便宜を図るために右預金証書は被申請人銀行に差し入れさせず別に副証書なるものを不正に作成してこれを被申請人銀行松任支店に保管し、検査係の検査を誤魔化していたこと等を各認めることができる。而して叙上認定の如き申請人の所為は畢竟前示認定の如き人事規定第十九条に所謂「不都合の所為」に該当し、また労働協約第十四条に所謂「職務懈怠取扱粗漏等により銀行の名誉を失墜し又は銀行に損害を及ぼした場合」「その他綱紀を紊り不都合な所為があつた場合」に該当するものと認めるのが相当である。申請人本人の尋問の結果のうち叙上の認定に反する部分は遂に措置できず他に叙上の認定を覆えし申請人の主張を認めるに足る証拠はない。よつて被申請人銀行が申請人を懲戒処分の対象としたことは相当であるといわねばならない。而して人事規定第十九条は懲戒解雇としての免職の外に罰俸、譴責の二種の懲戒処分を定め、労働協約第十五条は懲戒解雇として免職及び諭旨解職の二種を定めている外、減給、譴責、訓戒の三種の懲戒処分を定めていることは前示認定のところから明かであるが、申請人は懲戒処分の中最も重い本件の懲戒解雇は信義則に反し解雇権の濫用であつて無効であると主張するのでこの点につき按ずるに、申請人は被申請人銀行松任支店長という重職にありながら甚だしくその職務を懈怠し、よつて下僚である申請外中村成器の所謂浮貸(金融業の公共性に鑑み「出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律」第三条もこれを禁止している)を看過し、被申請人銀行に多額の損害を及ぼしたこと及び申請人が預金通帳を不正に二重発行する等の所為があつたこと前示認定の通りである以上、被申請人銀行が申請人を専ら害するため(加害の意思)を以て解雇権を行使したとはいい得ず、むしろ右の如きが頻発するに於ては被申請人銀行のような企業は崩壊の危機に導かれ、ひいては社会経済に及ぼす悪影響の甚大なること(銀行企業の公共性)は多くを論せずして明白なことであるから斯かる事由以上に被申請人銀行の企業維持にとつて由々しきことはなく、被申請人銀行が申請人に対し懲戒処分としては最も重い解雇(免職)を以て臨み、他の従業員の戒めともしなければならないのはまことに止むを得ざるところであつて、何ら労使関係を規律する信義則に背馳するものではない。よつて解雇権の濫用であるとの申請人の主張は理由がない。

然らば本件解雇の意思表示は有効でありこれを無効なりとして被申請人銀行の従業員たる地位の保全を求める本件仮処分申請は爾余の点につき判断する迄もなく失当であるから却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決した。

(裁判官 観田七郎 辻三雄 三井喜彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例